in the morning rain

ロンドンに留学している大学生のブログでした

反日映画 !?アンジー監督作「アンブロークン」を観た。

日本での公開未定映画「アンブロークン」についての日本語による正しい情報がネット上にあまりに少なく、記事を書く必要性を感じたのですっかり放置していたブログに書くことに。

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 http://www.unbrokenmovie.co.uk/ (公式サイト)

 日本軍に捕虜になった元オリンピック選手アメリカ人の実話をもとにアンジェリーナジョリーが監督を務め、制作された今作。捕虜収容所での日本軍による主人公への残虐な暴力が描かれる。それらを不屈(unbroken)の精神で主人公が耐え、生き延びるという内容だ。テーマがテーマなので日本では公開未定、また日本での上映反対の声もあるらしい、ということだったので日本人の自分にとっては観ていて心痛むものになるのであろう、と思いながら劇場に。

 


Unbroken - Official Trailer (HD) - YouTube

 

上映前、なぜこの種の映画にMIYAVIは出演オファーを受けたのだろうか、と考えていた。それも彼の演じる役は極悪非道な収容所長官だそうだ。日本人にとってはやはり目をつむってしまいたくなるような歴史だし、この映画に出演することで、日本のイメージを悪くすることに力を貸すことも考えられる。

彼がそのオファーを受けた理由としてインタビューで述べているのが、アンジー監督に説得された際の言葉で、「この映画を日本とアメリカ、そして同じような戦争を経験した国々との架け橋になるような意味のあるものにしたい、テーマは戦争ではなく、"許し"だ」というもの。鑑賞後その意味がよくわかった。

そのMIYAVIのインタビュー↓

http://www.nytimes.com/2014/12/21/movies/miyavi-on-his-unbroken-experience.html

 

映画が日本軍の残虐さ、というよりも戦争自体の恐ろしさにフォーカスしているのは明らかだった。日本のネットで騒がれているような、日本軍が捕虜の人肉を食すシーンなど全くないし、暴力も戦争映画で描かれるものとしては標準的なものだったように思う。

ちなみに、収容所の看守を演じるMIYAVIの演技は素晴らしく、単なる冷酷なサディストではなく、戦争により苦しむ人間としての彼もよく表現していた。MIYAVIの中性的な顔は美しく、役者としての存在感もあったので、これからハリウッドでの俳優業も上手くいくかもしれないと思わされた。

正直、映画の完成度としては、無駄なシーンが多かったり、登場人物に感情移入しづらかったりで、少し浅い作品だなという印象を抱いてしまっていた。映画の終盤までは、日本のことをこのように描いているからには、もう少し良いものを作ってくれよ、などと思っていたのだが、最後の最後はとても良かった。

[以下ネタバレ含む]

最後は主人公のルイ・ザンペリーニが長野オリンピックの聖火ランナーとして、沿道の応援に手を振りながら笑顔で走る当時の実際の映像で終わる。このシーンのザンペリー二氏の日本人、特に子供たちに向けられた優しい笑顔がとても印象的だった。ある意味衝撃的だった。この彼の笑顔で僕の映画に対する感想が変わったようなものだ。ここで急にリアリティを突きつけられた。この映画は実話を扱っているから意味があるのだと実感した。ここで、アンジー監督の言う、「forgiveness-許し」というテーマの意味を理解することができた。

ただ、戦後アメリカに帰還してから、長野オリンピックの舞台に至るまでのザンペリーニ氏の心境の変化などを描いたら、もっとオリジナリティある作品になったかなとは、個人的に思ったりもする。

[ネタバレ終了]

 

これは日本で上映するべきだ、日本人はこれを見るべきだ、などとは特に思ったわけではない。この映画を観ることで日本人だからという理由で何かを考えさせられたり新しいことに気づいたりする、ということはあまりないように思う。戦争の悲惨さや不条理さという普遍的なテーマを扱っていて、特に日本軍や日本人の特殊性が描かれているものではないからだ。ただやはり、公開しないという選択肢はおかしい。普通にひとつのハリウッド映画として上映されるべきだ。というよりいままでずっとそうだったはずだ。

家に帰って日本での「アンブロークン」の扱われ方をネットで調べてみると、多くのサイトで「反日映画」と紹介されており、またアンジェリーナジョリーやMIYAVIへの酷い非難も多くみられる。右翼層が一定数いるのは理解しているし、公開反対の署名が起こることなども驚きはないのだが、やはりこういう内容の発言が平然と行われる最近の日本全体としての右傾化には恐怖を覚えてしまう。映画を実際に観ればこの作品が「反日」のメッセージを含んでいないことはよくわかる。またネット上に、映画に関する間違った情報、というより映画への反感を煽るように編集された情報が溢れかえっていることにはとても危険を感じる(日本兵が捕虜の人肉を食すシーンがある、というのは全くの嘘)。

2014年末は金正恩氏の暗殺を扱ったハリウッド映画「ザ・インタビュー」の公開をめぐってのニュースを眺めながら映画のもつ世の中への影響力の大きさに呑気に関心などしていたのだが、この話題もいまや他人事とは感じられなくなってしまった。ドイツナチス関連の映画は山ほどあるし、ベトナム戦争を扱ったハリウッド映画なんて本当に多い。これらが製作されるたびにドイツやアメリカで、いまの日本のように映画に対する強い排除運動が行われていたのだろうか。いや、数年前の日本でさえこのような状況にはならなかったように思う。海外のメディアでもこの日本の「アンブロークン」のボイコットについての記事、そして批判が多く見られるが、まさにこのことが表現の自由が保障される先進国としての日本の世界における信頼や地位を脅かすものになってしまっているとは思わずにはいられない。