in the morning rain

ロンドンに留学している大学生のブログでした

Savages & Bo Ningen @ Oval Space, 19 Nov

人生初のライブレポートである。いままでライブの感想はだいたい「最高だった」と「良かった」で済ましてきた僕が、感じたことをうまく言葉にできるだろうか。

はじめにBo NingenとSavagesについて軽く触れておこう。Bo Ningenは2007年にロンドン留学中の日本人により結成されたバンドだ。イギリスでデビューし、のちに日本でも単独公演やフジロック出演を果たすことになる。おそらく、イギリスのインディーシーンで最も名の知られた日本人バンドだ。つい先月にはKasabianの前座として全米での公演も行った。一方Savagesは女性4人からなるバンドで、結成はロンドン(ボーカルのJehnnyはフランス出身)。昨年のデビューアルバムが各方面から高評価を受け、いまイギリスで期待の若手といったところだろうか。ジャンルでいうとBo Ningenはサイケデリック、Savagesはポストパンクなどとよく言われており、両者ともにライブパフォーマンスに定評があるバンドだ。Bo Ningenの楽曲NichijyouにJehnnyが参加するなど、Savages がデビューした頃から、両バンド間には交流があった。そしてその中で、'Simultanious Sonic Poem'というダダイズム思想に基づいたアイデアから計画が進められ、ついに2013年5月、ロンドンRed Gallaryにて、両バンドが同じ場所で同じ時間に演奏する、という画期的なパフォーマンスが行われた。そこで演奏された37分間の曲が、録音されマスタリングされたものが11月17日にThe Words To The Blindsとしてアルバムリリースされ、今回その行ってきたのはそのリリースライブということになる。

 

 


Bo Ningen -Nichijyou featuring Jehnny Beth ...

 

 

 

また、↓の記事は両バンドが共に出演したフジロック2013での8人でのインタビュー。彼らの関係性が興味深く語られているので是非一読していただきたい。

【独占対談】フジロックに出演したサヴェージズ×BO NINGENの盟友対談が実現!! | Qetic - 時代に口髭を生やすウェブマガジン “けてぃっく”

 

 

開場時間と思われる20時半にOval Space(ロンドン中心部東)に到着するとすでに列ができている。入り口付近には音量注意と耳栓推奨のポスターが貼ってあり、またタイムスケジュールをみると前座のバンドはなく、その代わりに短編映画が2本上映されるとのことだ。会場に入ると、すでにかなり人が入っていて会場前方は埋まってしまっている。どうやら一時間前に開場していたようだ。もちろんチケットはソールドアウトしている、おそらくキャパは1000人ほどだ。会場前方のスクリーンには現代アートのギャラリーで流れていそうな白黒映画が映しだされており、皆が各々ビールや何かを飲みながらそれを眺めているといった感じだ。会場に着いたあたりから薄々感じてはいたことではあったが、周りを見渡すと今日はどうもお洒落な感じの人が多い。学生らしき人があまりいなく、20代後半のインテリ芸術家風(?)の人が多い。僕が普段よく足を運ぶ、いわゆるUKインディーのようなバンドのライブとは少し客層が異なっていて、会場にどこか知的な空気が漂っているような気がした。これから行われるのはただのロックコンサートでないよ、芸術だよ、とでもいいたげな空気だ。ちなみに日本人はけっこう多いだろうとの予想が裏切られ、ほとんど見当たらなかった。また男女比は男性が少し多いくらいで女性も多くみられた。

先述したように、アルバムWords To The Blindsは、37分の大作一曲が録音が収められているものだ。今回のライブはそれの再演になるわけで、当然それはヒット曲もなければ曲間のMCもない。普通のロックコンサートとはだいぶ違う。

映画が終わると、裏にスタンバイされたバンドセットの影が少し映るスクリーンを眺めながらショーが始まるのを待った。緊迫感のあるSEが観客のこちらまで緊張させる。20分ほど待った頃だろうか、全身を黒で包んだ4人と4人が歓声と拍手のなか登場した。バンド同士が向かい合っているような形でコ字型のステージの立ち位置につく。まさに音のぶつけ合い、戦いが始まるといった感じだ。まだ若干オーディエンスがざわつくなか、ボーカルの二人が詩の朗読のように言葉を発し始める。Jehnnyはフランス語でTaigenは日本語で、二人は交互に、またかぶさるように囁く。自分が日本語を理解できることに少し優越感を覚えながら、周りの英国人たちを見渡し、彼らにはこれがどのように聴こえているのだろうかと不思議な感覚になる。初めは少々騒がしかった後方の観客たちが彼らの世界に飲み込まれていくのがわかる。二人の声の隙間に少しずつ音が挟まれていき、徐々に楽器が足されていく。

 

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Words To The Blinds-盲人のための言葉-という曲名であるが、言葉があるのはこの冒頭と終盤だけで、中盤は楽器による演奏が主になっている。もちろん声も入ってくるがこれは楽器としての役割で、特に歌詞のようなものはなかったように思う。8人がそれぞれ楽器を鳴らし始めると、この絵面だけでもなかなかの興奮ものだ。Bo Ningenはいつものようにあの長い髪をこれでもか、というくらい振り回しているし、SavagesのJehnnyは常に殺気立っていて、ステージから感じられる熱気と緊迫感がすごい。演奏はというと、空間系エフェクターをふんだんに使用したサイケデリックでヘビーな感じだ。これはこのアルバムを聴いていただければ感じが伝わるはずだ。

生ライブで体験する音楽と家で聴く音楽が別物であることは当然のことであるが、特にこの日はそれをいつも以上にそれを体感させられた。先述したようにこのライブは耳栓の必要性も考えられるほどの爆音であった。'ロンドンで最も音がデカいと言われるバンドの二つ' (先ほどのインタビューの記事より)が同時に音を出しているのだから当然あろう。自分の立ち位置の関係でステージがよく見えなかったこともあるが、ギター3本、ベース2本、2台のドラムが同時に音を出しているのだから、各々がなにをやっているのかはあまりわからず、そしてそれは問題でなく、むしろ全ての音が一つの塊となってぶつかってきているような印象を覚えた。気持ちよすぎる。僕はマイブラの名盤'Loveless'の一曲目Only Shallowのイントロを聴くといつも、'怪獣みたいな音だな'と思うのだが、そんな感じの音だ。それがずっと続く感じだ。伝わるだろうか。あと、ツインドラムがこんなに気持ちのいいものだとは思わなかった。二人のリズムが完璧にマッチしておらず人間的なところもまたいいのだ。

演奏は基本的に混沌としているのだが、構成はアルバムどおりで、キメがしっかりあり、緩急がありで、約40分で一曲という大作であるが最初から最後まで全く飽きる瞬間のないショーであった。最後はThank youという言葉とお辞儀(Bo Ningenは合掌も)と共に彼らはステージを後にした。

 

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終演後のコの字型のステージ。最前列にいた観客はこのように前方にドラムセット、左にはSavages右にはBo Ningenという状態、羨ましい。

 

日本人である自分から見てもミステリアス過ぎる長髪の4人の日本人。女性のもつ可愛らしさというものを拒絶しているかのように、髪を短くし、黒服に全身を包む4人の女性たち。ビートルズの時代から続いてきたいわゆる英国ロックバンドの型からは外れた、この2つのロンドンの異端バンドがみせてくれた、肉体的、精神的な'熱量'はあの会場にいた全員をとてつもなく興奮させた。ライブの後に、これ本当に最高だな、という空気がオーディエンス間で共有されることが稀にあるが、今回はまさにそれだった。隣の人と無言で、すでに興奮をわかちあっているような感覚だ。

彼らは、最近のUKギターロックバンドの多くが忘れてしまっているように思われる、ロック音楽のもつ'熱さ'をライブを通して我々に体感させてくれるバンドだ。彼らがお互いバンド同士でシンパシーを感じ、共に表現活動をしているのはとても自然なことである、と思わずにはいられなかった。SavagesとBo Ningen、この2つの異端がUKロックシーン全体に今後どのような影響を与えていくことになるか注目である。

 

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ライブが終わったあともなかなか人が帰らず、たくさんの人がお酒を飲みながら友人との会話を楽しんだりとリラックスしている。Oval Spaceは広くてバーも充実していてとてもいい場所だ。自分もひとり客だったわりには、上のようにステージ周りの写真を撮ったりとけっこうダラダラと時間を使った。この素晴らしい体験を提供してくれた場から離れてしまうのが寂しかったのだろうと思う。さて、そろそろ帰ろうかと会場外に出るための扉を開けると、なんと長髪で黒づくめの怪しい日本人がタバコを吸っているではないか。Bo NingenギターのYukiさんである。自己紹介をし、ライブが最高だったと伝えると、いやー本当最高だったね、最高に気持ちよかった、とYukiさん。だいたいこういうときは、ありがとうと返されるものなので、予想外の答えに少し驚く。本当に気持ちよさそうな、ライブの後の顔、という顔をしていた。Yukiさんはロックスターらしく、クールで振る舞いや話し方までかっこよかった。ライブの後ダラダラしているといいことがあるものだ。このあとさらにKohheiさんとMonnaさんも発見したので、お二人とも少しお話しさせてもらった。お二人ともとても優しくて謙虚な方だった。ステージ上とのギャップがすごい。今思えば彼らに尋ねておきたかった質問もいくつかあるのだが、とにかく、これからも日本人のバンドが世界でどんどんかっこいいことをしていくのを楽しみにしています、という気持ちは彼らに伝えられたと思うのでよかった。ロンドンに来てから何度も感じていることだが、こっちではアーティストとファンの距離が近い。次は誰に会えるのだろうか。

素晴らしい夜だった。